京浜急行電鉄(京急)は、平均で10.8%の値上げとなる鉄道旅客運賃の改定を2023年10月に実施することを予定しており、1月13日(金)付で国土交通大臣宛に認可申請を行いました。
羽田輸送はコロナ前の4割減
運賃改定の理由として京急は、新型コロナウイルス感染症の流行を契機とした事業環境の変化を掲げています。コロナ禍における行動変化に関する内閣府調査によると、2022年6月時点で東京都心の就業者のうち約5割がテレワークを実施しています。このため鉄道の利用機会は減少しており、関東大手民鉄は各社とも厳しい経営環境に直面しています。
京急の利用者数は、2018年度は年間で約4.8億人を数えていましたが、2021年度は約3.6億人と25%減少しています。鉄道事業は2期連続の営業赤字に転じており、2020年度に123億円、2021年度に52億円の大幅な損益を計上しています。
コロナ前と比べた輸送人員、鉄道部門収益の推移を見ると、京急の減少率は関東大手民鉄の平均値よりも大きくなっています。この背景には、羽田空港アクセスの急激な需要減があります。国際線の拡充に伴い、羽田空港2駅(羽田空港第1・第2ターミナル駅、羽田空港第3ターミナル駅)の輸送人員は、2018年度の定期外利用全体のうち約17%を占めるまでに伸長していました。しかしながら、コロナ禍による航空旅客数の減少を受けて両駅の利用者は約4割減少しており、京急の経営に甚大な影響を及ぼしています。
また、通勤定期の利用者の回復も遅く、2022年10月時点でもコロナ前に対して2割超の減少が続いており、回復の見通しは立っていないとしています。
この危機的な経営状況を受け、人件費や管理費の削減、運転ダイヤの適正化、安全に支障のない範囲での修繕や設備投資の先送りなどを実施し、抜本的な固定費削減を進めているとのことです。このような中でも既存設備を維持管理し、ホームドアなどのさらなる安全対策を行っていくほか、品川駅や羽田空港第1・第2ターミナル駅での大規模な輸送力増強工事も本格化します。
今後5年間は年間平均265億円の設備投資を見込んでおり、不足する費用の一部を利用者に負担してもらう必要があるとし、1995年(平成7年)以来となる約28年ぶりの運賃改定(消費税率変更によるものを除く)に踏み切ります(運賃改定前後の普通運賃、主な区間の運賃など詳細は下の図表を参照)。
値下げ武器に三浦半島を活性化
普通運賃の平均改定率は10.7%で、1〜3km区間の初乗り運賃は1円単位(ICカード)、10円単位(きっぷ)とも150円となり、現行よりも10〜14円値上げされます。その他の区間は距離が遠くなるほど改定率が低く設定され、41km以上は全区間で値下げとなります。通勤定期運賃は割引率が現行より下がり、平均で11.9%の値上げ幅となりますが、普通運賃と同様に41km以上は値下げされます。
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なお、家計への負担軽減のため、通学定期運賃は全区間で現行のまま据え置かれます。空港線加算運賃や座席指定料金の変更はありません。
品川駅を基準にすると金沢八景駅以遠、横浜駅からは三浦海岸駅以遠の区間が41km以上に該当します。品川駅〜三崎口駅間の普通運賃(1円単位)は、現行の943円から改定後は740円となり、203円値下げされます。京急は「三浦半島の新たな需要創出と沿線活性化に寄与したい」と、遠距離区間を値下げする目的を説明しています。
人口減少が続いている横須賀・三浦エリアですが、コロナ禍に伴い郊外の居住やレジャーに対する価値観が変わっており、その魅力は高まっていると京急は期待しています。近年は「都市近郊リゾートみうらの創生」をテーマに、観光資源の掘り起こしや企画乗車券の発売、シームレスな移動サービスの提供といった取り組みを行っています。
これらに今回の運賃値下げを加えて鉄道利用をさらに促進し、観光・定住の両面から三浦半島へ多くの人々に来訪してもらえる仕組みづくりを進めたいとしています。